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証券市場のシステム史

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外国為替市場はもともと国際銀行間の通貨決済の場として始まった. 国際銀行間の取引を円滑に実行するため, ブローカーと呼ばれる仲介業者を利用することが行われるようになっていき, このブローカー集団が情報交換を行い取引可能な国際銀行に所属するトレーダー間の仲介を行う業務として, ボイス・ブローキングが組織されるようになっていった.

ボイス・ブローキング・システムとは, 銀行とブローカー間を電話(ホットライン) あるいはテレグラム, FAXで結び, ブローカーに対して注文(気配値)を提示し, 取引可能な他のブローカーを探し出してもらう仲介システムを指す. たとえば, 図1に示すように, あるブローカーに外国為替銀行Aから出されたドル買いの注文が114.20円/ドル, ドル売りの注文が114.26円/ドルとすれば, このブローカーはホットラインを通じて参加するトレーダーに対して, 相場を114.20-26と唱える. これを聞いて, 別の外国為替銀行Bが同じくホットラインを通じて114.20円/ドルでドルを売る通知をして来れば, 取引が114.20円/ドルで成立する. USD/JPYと記述した場合, アメリカドル(USD)1単位の価格を日本円(JPY)建てで表記する. この場合前にあるUSDを第一通貨, 後ろにあるJPYを第二通貨と呼ぶ. 第一通貨を第二通貨で買う(売る)ということと第二通貨を第一通貨で売る(買う) ということは同じ意味である.

便宜上第一通貨を第二通貨で相手が買ってくれる価格のことを 買気配 または ビッド (bid)第一通貨を第二通貨で相手が売ってくれる価格のことを 売気配 または アスク (ask)と呼ぶ. アスクのことは オファー (offer)とも言う. 現在市場に出ているものの中で最大の買気配値のことを 最良買気配 または ベスト・ビッド (best bid)最小の売気配値のことを 最良売気配 または ベスト・アスク (best ask)と呼ぶ. ベストビッドとベストアスクの幅を証券市場同様にビッド・アスク・スプレッドと呼ぶ.

例えば, USD/JPYの場合銀行間取引の1取引単位は1,000,000USD(日本円で約1億円)である. 外国為替市場において市場参加者は伝統的に 証券市場のシステム史 両建て提示 (two way quotation)と呼ばれる独自の注文方法を採用してきた. 両建て提示とは売りを意図している注文であっても, 買いを意図している注文であっても, 両方の注文価格を同時に提示する注文方法である. この方法を採用しているために, 外国為替市場の注文記録から需給バランスを原理的に推定することができない.

ボイス・ブローキング・システムの多くは, ブローカー集団が円卓を囲み, ブローカー集団間が口頭やジェスチャーを通じて意思疎通を行うことによって成立している (図2のような情報伝達経路をとっている). そして, 現在自分達の顧客が提示している注文のすりあわせを行い, 取引可能なトレーダーを探し出し取引を実現することを行っている.


図1 国為替市場参加者(USD/JPY)の取引の構造. USDを買うことは JPYを売ることと等価であり, USDを売ることはJPYを買うことと等価である.

図2 ボイス・ブローキング・システムの情報伝達構造(a). 中心にボイス・ブローカが相互に情報交換を行える円卓がある(b). 各トレーダーはボイス・ブローカーと電話(ホットライン)やFAX などの情報伝達手段を用いて注文情報のやり取りを行う (トウキョウフォレックス上田ハーローにて著者佐藤が許可を得て撮影).

1990年代に入り, コンピュータと光ファイバ通信網を用いた情報通信技術 (ICT;Information and Communications Technology)の進歩と普及を受け, クライアント--サーバ方式のマッチングエンジンによるブローキング・システム (電子ブローキング・システム)が導入されはじめた. ロイター社が1991年にReuters2000-1というコンピュータ取引システムを発表して以来, 外国為替市場の業務は電話やFAXに代り, コンピュータ端末が重要な役割りを演じるようになっている. その後, 1993年に入り世界銀行12行によって EBS(Electronic Broking System)が組織され, 2大ブローキング・システムの競争が始まり, 電子ブローキング・システムの普及の時代に入った. 特に, 電子ブローキング・システムは公平性, 高速性, 価格性の観点からボイス・ブローキング・システムに対して強い競争力を持っていたため, 加速的に普及し, ボイス・ブローキング・システムより電子ブローキング・ システムを利用する市場参加者が増加し続けている. 電子ブローキング・システムでは, トレーダーはコンピュータ端末上に希望する取引価格を入力する. この注文価格は通信回線を通じて中央のホスト・コンピュータに送信され, ホスト・コンピュータ上で自動的に取引可能な他のトレーダーからの注文との適合が行われる. ベスト・ビッド, ベスト・オファーが更新された場合にはコンピュータ端末上で気配価格の更新が行われる. もし取引可能なトレーダーからの注文が存在する場合には両方のトレーダーのコンピュータ端末に取引がなされたことが表示される. その後所定期間以内に決済がなされ取引約定が成立する. 図3(a)に電子ブローキング・システムの情報伝達経路を示す. 各トレーダーはトレーダーが操作可能なコンピュータ端末から注文を入力し, 中央のマッチングエンジンへ注文情報を送信する. 自動的に注文のマッチングを行い, 取引可能なトレーダーを探し出すことができる. 図3(b)は代表的な電子ブローキング・システムあるICAP EBSプラットフォームを利用するときに使用されるコンソールである.

図3 (a)電子ブローキング・システムの情報伝達構造. 中心に市場管理サーバーが注文の自動適合を行う. 各トレーダーはコンピュータ・ネットワークで接続されたコンピュータ端末を用いて, 直接注文のやりとりと市場価格の確認を行うことができる. (b)代表的な電子ブローキング・システム(ICAP EBS)で使用されるコンソール (ICAP EBS社の許可を得て転載).

外国為替市場(インターバンク)での気配価格を参照値として, 銀行窓口や両替所における実際に取引される通貨交換レート (TTS/TTB)が決められている. 外国為替市場では瞬間瞬間で価格が変化し続けているため, ある基準時間における交換レートを参照値とし仲値(TTM)と呼ばれる価格が決められている. 多くの銀行では毎営業日の9:55ごろの為替レートを参考に価格が決定される. また標準的な仲値を提供するサービスとしてWM/ロイター社がある. 毎日ロンドンの午後4時にインターバンクで取引されているレートをもとに決定される. 執筆現在158の通貨のレートが発表されている.

外国為替市場の取引

外国為替市場は地球の自転に連動して, 昼間に対応する時間帯が変化することに起因して取引の中心的な地域が変化する. そのため世界中の日中に対応する時間が変化することによる市場の時間依存性が存在する. 世界の商業活動の活発な地域を分割するとおおよそアジア, ヨーロッパ, アメリカの3つの地域に分割される. 表1は外国為替市場の参加者が多い代表的な市場の活動時間とタイムゾーンを示す.

RegionIHLocal OpenLocal CloseLocal Time Zone
SydneySY8:00:0017:00:00Australia/Sydney
TokyoTK9:00:0017:00:00Asia/Tokyo
Singapore/Hong KongHK8:00:0017:00:00Asia/Hong Kong
LondonLN8:00:0017:00:00Europe/London
New YorkNY8:00:0017:00:00America/New York
GlobalGL17:00:0017:00:00America/New York

世界標準時であるUTCで時間を取ると, アジア活動時間は0:00-8:00 (UTC+2), ヨー ロッパ活動時間は8:00-16:00 (UTC+2), アメリカ活動時間は 16:00-24:00(UTC+2)に対応する. 国による夏時間(Day Saving Time) 導入の違いに多少は依存するが,世界標準時間(UTC)から見たときに時間の移動が起こる. また,国による祝祭日の違いも外国為替市場の取引の状態に影響を与える. 例えば8月15日や12月24日はキリスト教圏では祝日となっているが, 日本では通常の営業日である.

アジア活動時間帯で外国為替取引の中心的な地域は, 東京, シンガポール, 香港である. また, ヨーロッパ活動時間帯はフランクフルト, ロンドンが市場を形成している. アメリカ活動時間帯では,世界の情報が集まるニューヨークの影響が大きい.

3年に一度, 国際決済銀行 (Bank of International Settlement;BIS) は BIS Triennial Central Bank Survey (BIS) と呼ばれる世界中の中央銀行やトレーダー集団から集計した外国為替の取引状況に関するサーベイを出版している. この情報によると, USD(アメリカドル), EUR(ユーロ), JPY(日本円) は2004年現在世界で取引量の多い3大通貨である.また, GBP(イギリス・ポンド), CAD(カナダ・ドル), AUD(オーストラリア・ドル), SEK(スウェーデン・クローナ), NOK(ノルウェー・クローネ)は取引量の多い通貨である. 表2に3大通貨の各時間帯における取引量を記す. USDはヨーロッパ活動時間帯で半分以上が取引されている. EURもまたヨーロッパ活動時間で70% が取引されている. JPYはアジア活動時間とヨーロッパ活動時間でそれぞれ40% 程度が取引されている. 各国の通貨は ISO 4217 で規定される3文字の通貨コード(表3参照)で通常表記される. 以降の章においてもこの表記法を使用する.

表2 BIS Triennial Central Bank 証券市場のシステム史 Survey2004に基づき2001年 4月における1日平均の取引量を100万米ドルで表記した.

活動時間帯USDEURJPY アジア活動時間373,179 (25.3%)74,745 (12.2%)160,証券市場のシステム史 証券市場のシステム史 384 (43.4%) ヨーロッパ活動時間806,997 (54.8%)430,156 (70.3%)137,731 (37.3%) アメリカ活動時間292,563 (19.9%)106,909 (17.5%)71,448 (19.3%) 全活動時間1,472,739611,810369,563

表3 主要通貨のISO 4217コードと国・通貨名.

コード国・通貨コード国・通貨
AMDアルメニア・ドラム (Armenia Dram)AUDオーストラリア・ドル (Australian Dollar)
ARSアルゼンチン・ペソ (Argentina Peso)AZNアゼルバイジャン・マナト (Azerbaijan Manat)
BDTバングラデッシュ・タカ (Bangladeshi Taka)BRLブラジル・レアル (Brazil Real)
BHDバーレーン・ディナール (Bahrain Dinar)BTNブータン・ニュルタム (Bhutan Ngultrum)
CADカナダ・ドル (Canadian Dollar)CHFスイス・フラン (Swiss Franc)
CLPチリ・ペソ (Chilian Peso)COPコロンビア・ペソ (証券市場のシステム史 証券市場のシステム史 Colombian Peso)
CNY中華人民共和国・元 (Chinise Yuan)CZKチェコ・コルナ (Czech Koruna)
DKKデンマーク・クローネ (Danish Krone)DZDアルジェリア・ディナール (Algerian Dinar)
EUR欧州連合(EU)・ユーロ (Euro)EGPエジプト・ポンド (Egyptian Pound)
FJDフィジー・ドル (Fiji Dollar)GBPイギリス・ポンド (British Pound)
GHCガーナ・ セディ (Ghanaian Cedi)HKD香港・ドル (Hong Kong Dollar)
HUFハンガリー・フォリント (Hungarian Forint)IDRインドネシア・ルピア (Indonesian Rupiah)
INRインド・ルピー (Indian Rupee)ISKアイスランド・クローナ (Iceland 証券市場のシステム史 Krona)
IRRイラン・リアル (Iranian Rial)JPY日本・円 (Japanese Yen)
JMDジャマイカ・ドル (Jamaican Dollar)KZTカザフスタン・テンゲ (証券市場のシステム史 証券市場のシステム史 Kazakhstan Tenge)
KESケニア・シリング (Kenyan Shilling)KRW大韓民国・ウォン (South Korean Won)
LBPレバノン・ポンド (Lebanon Pound)LVL[10]ラドビア・ラト (Latvian Lat)
MNTモンゴル・トゥグルグ (Mongolia Tugrik)MYRマレーシア・リンギット (Malaysian Ringgit)
MXNメキシコ・ペソ (証券市場のシステム史 Mexican Peso)NOKノルウェー・クローネ (Norwegian Krone)
NZDニュージーランド・ドル (New Zealand Dollar)OMRオマール・リアル (Omani 証券市場のシステム史 証券市場のシステム史 Rial)
PENペルー・ソル (Peruvian Nuevo Sol)PKRパキスタン・ルピー (Pakistan Rupee)
PHPフィリピン・ペソ (Philippine Peso)PLNポーランド・ズウォティ (Poland Zloty)
RONルーマニア・レイ (Romanian Lei)RUBロシア・ルーブル (Russian Rouble)
SEKスウェーデン・クローナ (Swedish Krona)SKK[11]スロバキア・コルナ (Slovak Koruna)
SIT[12]スロベニア・トラル (Slovenia Tolar)SGDシンガポール・ドル (Singapore Dollar)
THBタイ・バーツ (Thai Baht)TRLトルコ・リラ (Turkish Lira)
UAHウクライナ・フリヴニヤ (Ukrainian Hryvnia)USDアメリカ合衆国・ドル (United States Dollar)
VERベネズエラ・ボリバル (Venezuelan Bolivar)ZAR南アフリカ・ランド (South Affrican Rand)
[10]2014年1月15日LVL廃止. EURに変更.
[11]2009年1月16日SKK廃止. EURに変更.
[12]2007年1月14日SIT廃止. EURに変更.

国際決済銀行の2013年の外国為替市場に関するレポートによると1日平均 (4月1日平均)証券市場のシステム史 の外国為替市場の取引量は5兆3,450億米ドル(日本円で約507兆円, 1アメリカドルを95円として換算)である. 表4は1998年から2013年までの4月1日平均取引高の推移を示している. 1998年からの集計によると約3.5倍に増加している. この集計値は取引を行ったディーラー両方について取引をした通貨について2重に計算を行った値である.

表4 1998年から2013年までの外国為替市場で取引された1日あたりの平均取引高. 2013年版BIS Triennial Central Bank Surveyの外国為替市場レポートに基づく. 単位は10億米ドル.

集計年199820012004200720102013
通貨交換1,5271,2391,9343,3243,9715,345
スポット取引5683866311,0051,4882,046
アウトライト・フォーワード取引128130209362475680
外貨スワップ取引7346569541,7141,7592,228
通貨スワップ 取引10721314354
オプションおよび他の商品8760119212207337

外国為替市場で取引されるスポットでの取引量は, 2013年には1日2兆米ドル(約190兆円)を越え, 約90% が電子ブローキングシステム, ボイスブローキングシステムが約10% となっている. 世界的に見ると複数のボイスブローキングシステムと複数の電子ブローキングシステムが, 銀行間または企業間の通貨交換の仲介業務を行っており, 銀行間での直接的取引(直取引)も行われている.

外国為替市場の高頻度データ

外国為替市場の高頻度データは1次的には電子ブローキング・システム上で生成 される. 電子ブローキング・システムは銀行間取引や個人取引を仲介する仕組み であるがそこで交される 気配価格 (quotes)や 約定 (証券市場のシステム史 証券市場のシステム史 transaction)に関する詳細なデータは 匿名化 (anonymization)され,証券市場同様に販売されている. 電子ブローキング・システムから直接提供されるデータは極めて高解像度でかつ高頻度のデー タである. 外国為替市場は証券市場と異なり単一の取引所が存在しているわけ ではないため,電子ブローキング・システムで収集されるデータが外国為替市場 での取引全てを網羅しているわけではないが, 取引シェアの大半を担っている電子ブ 証券市場のシステム史 ローキング・システムの分析を行うことにより, 外国為替市場の様子を高解像度 データを用いて分析することが可能である. 本章で紹介するICAP EBSは自社で電子ブローキング・システムを運営しているため, ここから販売され るデータは極めて高解像度かつ高頻度のデータである. 例えばICAP EBS社(ICAP EBS社 http://www.ebs.com)から 販売されるEBSDataMine Level1.0の時間解像度は1秒である.

一方2次データ・プロバイダは複数の電子ブローキング・ システムから通貨注文と取引に関するデータを購入し連結して提供している. 2次データ・プロバイダは一般に外国為替市場データのみを取り扱っているわけではなく, 証券や債券, 国債, 金属, エネルギーなどの様々な金融データを収集販売している. そのため, 2次データ・プロバイダから提供されるデータの解像度や頻度は1次データ・ プロバイダの提供するデータに比べて高くない場合があるが, 一方でカバレッジは大きいという長所がある. 本章で利用するCQG社(CQG社 http://www.cqg.comから販売されるCQG Comprehensive FXの場合, 時間解像度は1分であり注文のデータのみが利用可能である. データは通貨ペア単位で販売されている.証券市場のシステム史

EBSDataMineLevel1.0

EBS Data Mineのヒストリカル・データにはEBS市場で提示された気配値のEBS Best BidとBest Offerおよび取引約定価格の情報が含まれている. 取引約定価格にはその時点で最も高い買い約定値(the highest paid) と最も安い売り約定値(the lowest given)が記録されている. 記録される時間は更新時間を基準としており, 約定レコードと気配レコードが記録されている. 気配レコードには更新時間終了時点のBest BidとBest Offerが含まれている. 約定レコードには更新時間中の最も高い買い約定値と最も安い売り約定値が含まれている. 更に Level2.0 には取引高に関するデータが含まれている.

データは標準的なCSV(comma separated values)形式で, ヘッダーとトレイラーはない. また, データは匿名化されており, 注文値(ビッドとオファー)と約定値の情報が含まれている.

CQG Comprehensive FX

外国為替市場のティック・データとして, CQG社が提供するTime & Salesデータ(以下 T & Sデータと省略)を説明する. T & Sデータは外国通貨間の取引ペアに対して気配値(注文)提示がサーバに届いた時刻, 注文価格, 売り注文価格, 買い注文価格の別が記録されている. 外国為替市場では, あるトレーダーの通貨の価格提示に対して, 他のトレーダーがその価格による通貨取引に応じることにより取引価格の決定と通貨交換がなされる. この価格提示はquote(注文)と呼ばれる. このデータは匿名化がなされているが, 日時, 活動時間帯, 価格, 注文, 通信種別, データ種別が記録されている.

外国為替市場の戦後史

表5に1944年から2013年までに外国為替市場に影響を及ぼした出来事をまとめた. 第二次世界大戦の終わり頃1944年7月, 連合国45カ国がアメリカ合衆国ニューハンプシャー州ブレトン・ ウッズに集まり国際通貨体制に関する会議を開催した. この会議では, 戦争の引き金となる通貨危機や通貨の不安定化を避ける方法が模索され, John Maynard Keynesは新しい世界通貨システムにおいて国際共通通貨バンコール (Bancor)を提案したが否決された. 議論の末, 金との等価交換を保証する共通通貨(兌換通貨)としてアメリカ・ドルが選択され, 金1オンス当たり35アメリカ・ドルと固定し, アメリカ・ドルに対する他の主要通貨の交換比率を固定する 固定相場制 (ペッグ制)が採用されることとなった. これを実施するために, ブレトン・ウッズ協定(IMF協定)が批准され, これに基づき, 国際通貨基金 (IMF)と 国際復興開発銀行 (IBRD)の2つの組織が発足する. この固定相場制に基いた通貨交換体制を ブレトン・ウッズ体制 (Bretton Woods system)と呼ぶ.

日本が1952年にブレトン・ウッズ協定に加盟した結果, 日本における外貨取引が可能となり, 東京外国為替市場 が再開される. ブレトン・ウッズ体制は1960年代に入り世界経済の変化によって圧力を受けつつも持続したが, 1971年8月15日にアメリカ大統領ニクソンによって, アメリカドルと金との等価交換制度が変更されたことを受け( ニクソンショック ), 1971年12月アメリカドルの切下げと為替変動幅を拡大したスミソニアン体制が始まる. スミソニアン体制は1972年にイギリス・ポンドが変動相場制へ移行, 日本・円も1973年2月に変動相場制へ移行したのに続き, ドイツ・マルクは1973年3月に変動相場制へと移行したことを受け事実上崩壊し, 1976年1月キングストン合意により 変動相場制 (フロート制)の承認と金とアメリカ・ドルとの固定的な交換比率の廃止が決まった. アメリカ・ドルは以降兌換通貨でなくなる.

1971年以降, 多くの通貨に対して, 変動相場制のもとで, 通貨の交換すなわち通貨取引が盛んに行われるようになり, 外国為替市場は世界的な市場として発展するようになった. 更に, 1985年のプラザ合意以降, イギリスのビッグバン政策が実施されたことに強い影響を受け, 多くの国々では通貨流通に関する制限は撤廃され, 一部の経済的に弱い国を除いて通貨交換レートが市場原理 (market mechanism)に従い変化するようになっていった.

東南アジアの国々では, 自国の経済発展を安定化させるために, 変動相場性による不安定要因を弱める目的で, バスケット方式による, 固定相場制度を維持し続けた. しかしながら, 外国為替市場の世界的な取引活発化の結果, 1997年に固定相場制を維持することができなくなり, タイ・バーツの暴落に代表されるいわゆるアジア危機が生じた.

また, ヨーロッパでは1979年にECが導入した通貨システムが, ECの拡大発展に伴って成立した欧州連合(EU)に引き継がれ, 1999年には欧州共通通貨ユーロ(Euro)の導入へと発展する.

日本円とアメリカ・ドルとの交換レートはブレトン・ウッズ体制のもとで, 当初, 1ドル360円に固定されていた. 1973年2月の変動相場性への移行後, 日本円とアメリカ・ドルの交換レートは, 1975年12月に1ドル307円の最高値を記録して以来, 日本の輸出産業の強さに起因して円高ドル安の展開が続き, 1995年4月19日, 東京外国為替市場が1ドル79.75円の最高値を記録した. さらに, 2011年10月31日には75.54円となりこれまでの最高値記録が更新された.

証券市場のシステム史

経済企画庁『国民経済計算年報』各年、日本銀行『経済統計年報』各年、日本銀行『金融経済統計月報』各月、東京証券取引所『証券統計年報』各年、『北海道信用保証協会50年史』(平11)、日本政策投資銀行『北海道東北開発公庫史』(平14)、『共生・夢・創造―北海道労働金庫50年史』(平13)証券市場のシステム史 、『札幌証券取引所50年史』(平12)、北海道拓殖銀行『有価証券報告書』各期、北海道銀行『有価証券報告書』各期、北洋相互銀行『有価証券報告書』各期、北洋銀行『有価証券報告書』各期、北海道相互銀行『有価証券報告書』各期、札幌銀行『有価証券報告書』各期、北海道新聞取材班『解明・拓銀を潰した「戦犯」』(平12)、林周二『流通革命』(昭37)、林周二『流通革命新論』(昭39)、長期総合研究所『全解明 流通革命新時代』(平9)、北海道情報広報センター『ニューフロンティア第19号 大型店問題特集号』(昭51)、札幌商工会議所『札幌市における都心部商店街の課題と発展策―中間報告書―』(昭47)、札幌商工会議所『流通近代化のために(生鮮食料品を中心として)』(昭47)、札幌市商店街近代化推進委員会『狸小路商店街診断報告書―新生狸小路が目指すもの―』(昭48)、札幌市経済局『札幌市の小売市場史』(昭53)、札幌市経済局『札幌市公設小売市場』、札幌商工会議所『札幌商業ガイド』(平9)、『金市館と加藤良雄の五十年』(昭47)、『丸井今井百年のあゆみ』(昭48)、札幌都市開発公社『札幌地下街十年誌』(昭57)、『ステーションデパート30年の歩み』(昭57)、『五番街振興会30周年記念誌』(昭58)、『丸ヨ池内95年の歩み』(昭63)、『コスモ20年の歩み』(平1)、『南円山公設小売市場商業協同組合創立35周年記念誌』(平1)、『札幌市中央卸売市場二十五年史・青果編』(昭61)、『札幌市中央卸売市場二十五年史・水産編』(昭61)、日本統計協会『統計でみる日本のサービス業―サービス業基本調査の結果から』(平9)、飯盛信男『経済政策と第三次産業』(昭62)、社団法人シルバーサービス振興会『シルバーマーク認定事業者要覧』(平10)、『北の大地に刻む 北海道新聞60年史』(平15)、『北海タイムス三十五年史』(昭56)、星野一風『資本の論理 メディアの倫理―北海タイムス崩壊のドキュメント』(平12)、北海道テレビ放送『この10年』(昭53)、北海道文化放送『uhb20年の歩み』(平5)、『NTTドコモ十年史』(平14)、田村巌『北海道の電信電話年代記』(証券市場のシステム史 平14)、川井洋一「札幌テクノパーク〝その成功と背景〟」『21世紀の地方自治戦略5巻 地域の産業振興』(平4)、札幌商工会議所『北の技術'85 先進企業情報ガイドブック北海道』(昭60)、『サッポロバレーの誕生―情報ベンチャーの20年』(平12)、『北のあかりを灯し続けて―北海道電力五十年の歩み』(平13)、北海道電力株式会社『北海道電力の現状と課題』(昭54)、北海道電力株式会社『VOLTAGE―北海道電力の現状 2004-2005』(平16)、北海道電力株式会社『有価証券報告書』各期、『北海道瓦斯五十五年史』(昭41)、『札幌・小樽・函館―三つの街。話の花束―北海道ガス80周年記念誌』(平3)、北海道ガス株式会社『会社案内』(平16)、北海道ガス株式会社『有価証券報告書』各期、北海道新聞社『北海道年鑑』(昭50年版、昭52年版)。

証券市場のシステム史

1937-1949

1950-1959

1960-1969

1970-1979

1980-1989

1990-1999

2000-2009

2010-2019

2020

1937-1949

1950-1959

1960-1969

小牧工場竣工、操業を開始。米国のBowl-Mor Company, Inc.との提携で、ボウリングマシンの国産第1号機(写真)を生産。

1970-1979

1980-1989

米国・シカゴに初の現地法人Daifuku U.S.A. Inc.を設立。

カナダ・トロントに現地法人Daifuku Canada Inc.を設立。

シンガポールに現地法人Daifuku Mechatronics (Singapore) Pte. Ltd.を設立。

英国・ロンドンに現地法人Daifuku Europe Ltd.を設立。

1990-1999

タイに現地法人Daifuku (Thailand) Ltd.を設立。

マレーシアに現地法人Daifuku (Malaysia) Sdn. Bhd.を設立。

Daifuku (証券市場のシステム史 Thailand) Ltd.のChonburi工場(写真)が操業開始。

インドネシアに現地法人P.T. Daifuku Indonesiaを設立。

韓国に現地法人Clean Factomation, Inc.を設立。

2000-2009

韓国に現地法人Daifuku Carwash-Machine Korea Inc.を設立。

インドに現地法人Daifuku India Private Limitedを設立。

米国Jervis B. Webb Companyの全株式を取得し、子会社化。空港向けシステム事業に参入。写真下はJervis B. Webb Companyから贈られた記念の楯。

韓国の現地法人ATS Co., Ltd.、MIMATS Co., Ltd.証券市場のシステム史 、Daifuku Carwash-Machine Korea Inc.を統合し、Daifuku Korea Co., Ltd.を設立。

Daifuku (Thailand) Ltd.のPinthong新工場(写真)が竣工。

2010-2019

米国統括会社Daifuku Webb Holding Companyを設立。

空港向けシステムを手掛けるLogan Teleflex (UK) Ltd.、Logan Teleflex (France) SA、Logan Teleflex, Inc.の3社の全株式を取得し、子会社化。

韓国最大手の洗車機メーカーHallim Machinery Co., Ltd.の全株式を取得し、子会社化。

Daifuku Webb Holding Companyが、空港向けサービス事業を手掛ける米国Elite Line Services, LLC の出資証券を取得し、子会社化。

作業しやすい高さに車体を昇降させて搬送する自動車組立ライン向け「FALS(Flexible Assembly Leveling System)」(写真上)を開発。

メキシコに現地法人Daifuku de Mexico, S.A. de C.V.を設立。

ブランドメッセージ「Always an Edge Ahead」を制定。

Daifuku Webb Holding Companyが、米国Wynright Corporationの全株式を取得し、子会社化。

空港向け手荷物搬送システムを手掛ける、ニュージーランドのBCS Group Limitedの株式を80%取得し、子会社化。

米国統括会社のDaifuku Webb Holding CompanyがDaifuku North America Holding Companyに社名変更。

米国Modern Materials Handling誌の調査において、マテリアルハンドリング業界の2014年度売上高で世界1位にランクイン。

米国統括会社Daifuku North America Holding Companyの本社を移転。写真はミシガン州の新社屋。

インドのVega Conveyors and Automation Private Limitedの全株式を取得し、子会社化。

保安検査設備等の空港向けシステムなどを手掛ける、オランダのScarabee Aviation Group B.V.の株式80%を取得し、子会社化。

空港向け情報管理システムを手掛ける、オーストラリアのIntersystems (Asia 証券市場のシステム史 Pacific) Pty. Ltd.の全株式を取得し、子会社化。

証券市場のシステム史

経済学科産業経営学科金融公共経済学科教養ゼミナールミクロ経済学を使いこなす/契約と組織の経済学/日本経済の課題を探る/理論経済学(立地選択を含めて考える)/産業組織論/企業戦略と経済・経営/英語で学ぶ経済学・ゲーム理論/計量経済学を用いたデータ分析/日本経済とマクロ経済学/データを使って経済と社会について考える/人工知能による最適化プログラミングと応用/統計学や物理学の手法を用いた経済・社会現象の分析/ミクロ経済学/制度派経済学/経済史/日本経済史(ディベートを通じて日本経済の過去と現在を学ぶ)/経済思想史/環境経済論/歴史から見る社会と経済/租税政策論/経済政策論/財政と公共経済学/会社法とその関連法規/日本経済論/金融システムと日本経済/フードシステム論/租税と経済・社会/財政学/経済地理学─フィールドワークを通して産業立地と地域問題、地域づくりの諸相を学ぶ/InternationalEconomics,Economic Development Study/金融論、日本経済論/行動経済学/公共政策の立案と評価の技法/政府の経済分析/「多様な資本主義」研究/国際経済論─国際貿易、多国籍企業、海外直接投資/企業経済学/東アジアの経済と社会/グローバル貧困削減の経済学/国際金融論/国際経営論/経済開発論(持続可能な経済開発と新興国経済)/ヨーロッパ経済論(経済統合の意義と格差を考える)/国際経済(国境を越えるヒト・モノ・カネについて考える)/人口経済論/福祉経済論/労働経済論─現代の働き方・働かされ方について考える/都市・地域経済学/都市問題論─ミクロ経済を使って都市や社会生活を考えるグローバルな視点からみる業界/人的資源管理論/産業・組織心理学/企業とチームのマネジメント/企業戦略と経済・経営/経営財務論(資金の側面から企業行動を考える)/国際経済論―国際貿易、多国籍企業、海外直接投資/グローバル・マーケティング論/国際経営論/マーケティング論/企業の経営戦略と国際経営/国際経済(国境を越えるヒト・モノ・カネについて考える)/租税政策論/会社法とその関連法規/租税と経済・社会/財務会計論/管理会計論/会計学/会計学(業界分析)・監査論(粉飾決算)・内部統制(不正会計・ガバナンス)/金融・証券市場の計量分析/租税法と租税国家/グラフマイニングによるビッグデータサイエンス/人工知能による最適化プログラミングと応用都市・地域経済学/経済政策論/財政と公共経済学/日本経済論/財政学/福祉経済論/都市問題論―ミクロ経済を使って都市や社会生活を考える/公共政策の立案と評価の技法/政府の経済分析/企業経済学/金融システムと日本経済/企業金融論/管理会計論/金融・リスクマネジメント/金融・証券市場の計量分析/行動経済学/統計学や物理学の手法を用いた経済・社会現象の分析/金融論、日本経済論/財務会計論英語と日本語の仕組みを探る/データサイエンスのための数理統計学/西洋哲学研究/日本近代文学と批評/地理学・地理教育研究/仕事と家族の社会学/アメリカ地域研究─多文化社会の文化創造を考える/ドイツ地域研究・日独比較研究/教育を通して現代社会を考える/言語と思考/英語学習法/公共政策/英語研究─英語の分析・調査からわかる新しい発見─/スポーツを読み解く/現代日本の文化を「よむ・みる・きく」/日本近世文学研究/効果的な教え方・学び方/世界の食文化/中世ヨーロッパ文化史/中国の言語と文化/世界の歴史を学ぶ─暗記科目から考える学問へ/日本の歴史と地域史/イギリス文学・文化研究/日中比較文化論/Language,Society,and Culture/スポーツ心理学/スペイン語の世界を探る/Japan's Relations with the World through History/ことばと社会/フランスの文化・芸術・社会/認知心理学/外国語学習ストラテジー/日本近代文学とメディア/「ことばと人権」・Language and Human Rights現在の日本は低成長、少子高齢化など他の先進諸国と比べても多くの課題を抱えています。本ゼミでは日本経済のさまざまな課題に着目し、それを解決するための政策提言を行います。このゼミの特徴はポリシーアウトリーチに力点を置いていることです。すなわち、経済学で得られた知見をもとに、より良い政策の方向性を示すだけでなく、実現可能性にも配慮した具体的な政策提案を行うことを目指します。新しい提案を行うためには、それに関わるすべてのプレイヤーが参加する誘因をもつ制度設計が必要となります。学生はヒアリングやアンケートなどを通じて問題解決の糸口を探ります。これまで、ゼミの3年生は日本銀行が主催する論文コンテスト日本銀行グランプリにおいて高齢者向け住宅の過小供給や事業承継問題を解決する提案を発表し、最優秀賞を受賞するなど審査員から高い評価を得てきました。大会を目指して協力して学ぶ! 04[ 研究テーマ一覧 ] 好奇心を刺激する多彩なテーマのゼミを用意しています。澤田ゼミ 研究テーマ : 証券市場のシステム史 「金融システムと日本経済」実現可能性の高い政策提案から問題解決能力を養う。― 澤田 充 教授

SPECIAL REPORT スペシャルレポート

水田 孝信

● 経歴
・2002年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了。
・2004年同研究科博士課程を中退しスパークス・アセット・マネジメント株式会社入社。
クオンツアナリストなどを経て2010年よりファンドマネージャー。
・2017年度より上席研究員兼務。
・2014年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。
同年より東京大学公共政策大学院非常勤講師。
・2016年度より人工知能学会金融情報学研究会幹事。2019年度より主幹事。

● 証券市場のシステム史 受賞歴
・2010年度および2012年度、人工知能学会研究会優秀賞。
・国際学術会議 IEEE Conference Computational
Intelligence for Financial Engineering and Economics 2014
にて3rd place award受賞。
・2020年度、人工知能学会全国大会優秀賞。

意外に難しい株式市場が存在する理由

株式市場はなぜ存在するのでしょうか?その理由は意外に難しく、株式市場に関わる仕事をしている人でもきちんと説明できる人は多くないかもしれません。むしろ、その存在が身近な人ほど当たり前の存在となってしまっていて、理由が説明できないかもしれません。実際のところ、株式市場が存在する理由は、歴史的な細部では諸説あり、1つの正解があるわけではありません。例えば、株式市場の存在理由と密接にかかわるお金の起源をとってみても歴史学上の未解決問題*1であり、正解はまったく分かっていません。
今回のレポートでは、歴史的な側面は考慮せず、学術的な正確性はあえて放棄し、なぜ株式市場が存在するのか私なりに考えたことを、分かりやすさを重視して書きました。これを考えることにより、例えば、なぜ株式は毎日売買できる必要があるのか、なぜ短期の投機家を排除してはいけないのか、もっと言えば、そもそも株式投資とは何なのか、といったことへの理解が深まります。
実は以前、工学部の大学教授の方々から「株式市場が人類の発展にどのように役立っているか説明してほしい」と頼まれて説明したことがあり、その内容を情報処理学会の学会誌に記事を書いたことがあります*2。私自身、この依頼があってから、株式市場の存在する理由を考え始めました。この依頼がなければ私もこの理由などまったく説明できなかったかもしれません。
さて、それでは説明を始めましょう。

人類は高度な役割分担により他の生物を凌駕

“カネ”が仲介することにより時間を越えた価値の交換が可能

このような時間を越えたモノの交換をするために、“貸し借り”を示す“証券市場のシステム史 証券市場のシステム史 カネ”*3を用意します。図2を見てみましょう。海が荒れているとき、イノシシを捕まえるのが得意なものが肉を渡し、渡すものがない魚を取るのが得意なものは、その借りを示すためにカネを渡します。そして、今度は逆に山火事などでイノシシが見つからなくなったときは、イノシシを捕まえるのが得意なものが、以前受け取ったカネを返し、魚を受け取ります。“貸し”を返してもらったわけです。このようにして、お互い困ったときに助け合い、飢えをしのいだのです。
このようにカネを仲介してモノやサービスを交換する場所を“市場”とよびます。市場は、はるか昔から存在したのです。人類が役割分担を始めカネという道具を使い始めると同時に市場はありました。市場は社会の仕組みに関係なく、太古より自然に発生した人類の基本的な活動なのです。「古代アテネのアゴラから現代の電子商取引まで、形態こそ違うものの、『市場』は『唯一の自然な経済』であり、本質が変わったことはない」*4のです。
さて、ここで出てくるカネですが、それ自体に価値がなくてもかまいません。それが貸し借りの証であると皆が約束できていれば、つまり、これを使えば貸しを返してもらえると皆が信じていられればそれで良いのです。

カネが仲介することにより価値創造が実現する前に価値を渡すことが可能

さて、この魚を取るのが得意なものですが、それに使う道具であるモリを作るのも得意とは限りません。逆に魚を取るのは苦手だが、モリを作るのは得意なものもいたでしょう。さて、モリは作れないが魚を取るのは得意なものは、どうやってモリを手に入れるのでしょうか?カネもモリも魚も持っていないとしたら。
図3を見てみましょう。しばらく使わないカネを持っている人がいたとしましょう。まず魚を取るのが得意なものにこのカネを渡します。魚を取るのが得意なものは、そのカネとモリを交換し、モリを使って魚を取り、魚とカネを交換します。そして得たカネを最初にカネを渡してくれたものに返すわけです。ただ返すだけでなく“分け前”を加えて返します。
この分け前の量を、どれくらい魚が取れるかに関わらずあらかじめ決めておけば“融資”ですし、魚を売って得たカネの一部を返してもらうと決めれば“投資”なのです。市場と同様、投資というのもはるか昔から存在したと考えるべきでしょう。

金融=すぐにお金が必要な人としばらく使わない人をむすぶ

新しい事業を始めるには出費が先、儲けも不透明 → 分け前を狙った投資が必要

さて、話を現代まで進めましょう。市場や投資、金融業者といったおおよそ本質的な機能は太古よりあったといえます。現代になるとそれをさらに円滑にするために高度化したと考えれば分かりやすいです。これまで述べてきたように、新しい企業を作り、新しい事業(みんなの役に立つこと)を始めるには、まず何も持っていないところから道具をそろえる必要があります。つまり、お金*3を使うのが先でもらうのが後なのです。このお金の出入りの時間を埋めるのが投資家の役割です。
投資と融資は一長一短あります。融資は分け前(金利)をあらかじめ決めるので適正な分け前を決めやすいという長所があります。企業が思ったほど皆の役に立たず、初めに受け取ったお金を回収できなかった場合は分け前を渡せないわけですが、その可能性が高ければ高いほど、つまり、不確実な事業であればあるほど、儲けが不確実で、渡したお金が回収できる可能性が低くなります。その可能性が低くなっても融資の場合、企業が返す分け前はあらかじめ決めてしまっているので、多くの見返りが見込めません。つまり、割に合わないのです。
投資はその逆と考えればいいでしょう。不確実な事業でも、大きく儲けたときにはそれに応じて分け前がもらえるので、割に合います。一方で確実性の高い事業なら分け前をあらかじめ決められる融資のほうが両者は納得しやすいです。このように融資と投資は一長一短ですが、以下は投資のみを見ていきましょう。
この投資という活動を円滑にするために生まれた仕組みが株式会社です。図5を見てみましょう。企業は投資家に、事業資金を受け取った“証”として“株式”を渡します。企業がその活動を通じてお金を得た場合、その量に応じて分け前を投資家に渡します。いわいる配当です。つまり株式は投資家から見ると、過去に事業資金を企業に渡した代わりに儲けの一部を未来に受け取る権利を示すものなのです。
株式があることによって、投資家は企業が行う事業が不確実なものであっても、大きく儲けが出た場合はその量に応じて分け前がもらえます。これによって投資家は不確実な事業へ投資が可能となるのです。そして、これまで誰も思いつかなかった、多くの人には将来どうなるか全く分からないような事業でも資金を集めることが可能となります。株式という仕組みはイノベーションが起こるために必要な、重要な機能なのです。
そして、この投資家と企業の仲介をしているのが金融業者である証券会社なのです。

投資は永久にするわけでない、辞めるときに簡単に転売できることが重要

図5は新しく株式を作成(発行)するときを示しました。このように新しく株式を発行する市場を一次市場とよびます。ようは新品の株式を販売する市場ですね。
しかし、投資は永久にするわけではありません。投資家には投資家の事情があり、企業が消滅するまでずっと投資を続けられるかどうかは分かりません。むしろ現代の企業は永遠に事業を営むことを前提としている場合が多いですし、実際に百年を超えて事業続けている企業も少なくありません。いつまで継続するか分からない企業の寿命に最後まで付き合える投資家はほとんどいないでしょう。
株式は事業資金を支払った証であるとともに儲けの分け前をもらえる権利を示すものでした。この証と権利である株式を、今投資を始めたい他の投資家に売ることによって、投資を終了させることができます。つまり、図5でみたような新品の株式ではなく、中古の株式を買う人がいれば、途中で投資をやめることができるわけです。
図6は、このような株式の中古市場(2次市場)を示しています。今、投資をやめたい、つまり株式を売りたい投資家と、投資を始めたい、つまり株式を買いたい投資家がいたとします。彼らはお互いを見つけるために、株式を売買したい人が集まる場所に行きます。これが取引所です*5。
取引所に投資を始めたい人とやめたい人がたまたま同時に現れれば問題ありません。しかし、両者が現れるのには通常、時間差があります。投資をやめたい投資家が取引所に来た次の日に、投資を始めたい投資家が来るかもしれません。ここで、まずいったん、投資をやめたい人から株式を買い取っておき、次の日に投資を始めたい人に株式を売る人がいれば、両者が行いたい売買を成立させることができます。両者がたまたま同時に現れなくても良いのです。このように、初めから転売することを目的で株式を売買する人を、ここでは“投機家”とよぶことにしましょう。投機家は投資家とは異なり、企業が行っている事業には興味がありません。株式の価格変動のみに興味があり、買った価格よりも少しでも高く売れればそれでよいと考えています*6。
確かに投機家が行っていることは投資とはいえないかもしれません。しかし、投機家がいることによって、投資をやめたい投資家と始めたい投資家は、この企業の投資家をスムーズに交代できるわけです。ようは株式の売買が容易になるわけです。この株式の売買の容易さを“流動性”とよびます。投機家による流動性の供給があるからこそ、投資を始めたりやめたりするのが容易なのです。
そして、もし2次市場に流動性がなければ、投資家は1次市場での投資を躊躇してしまいます。1次市場で投資した株式が2次市場で容易に売却できるからこそ、投資資金の回収が容易であり、不確実性の高い事業にも投資できるのです。もし投機家が少なく2次市場の流動性が低ければ、1次市場での投資を躊躇する投資家が増え事業資金が集まらず、人類が起こすイノベーションは減ってしまうでしょう。流動性はイノベーションを起こすのに必要なものなのです。

古本屋は本の中身に興味がない、でも「けしからん」とはならない

「投機は社会の役にたっていない」、「投機はただのギャンブルだ」といった批判がときどきあります。これらの批判の延長として「高頻度取引(HFT = High Frequency Trading)は悪だ」といったことまで言う人がまれにいます。ここまで読んだ皆様ならこれらの批判が見当違いであることはお分かりかと思います。投機はひとつの職業として成り立っていると思います。
このことを、古本屋を例にとって考えて見ましょう。図7は古本屋で取り扱いの多い本の売買の様子を示しています。Aさんは本屋である本を100円で買ったとします。読み終わって古本屋に90円で売ったとしましょう。Bさんはこの本を95円で買い、古本屋にまた90円で売ったとします。この本は古本屋があるおかげで円滑にまわしよみされていることが分かります。Aさんも古本屋で売れることが分かっているからこそ、本屋で新品の本が躊躇なく買えたという側面もあるでしょう。
図8は古本屋がない場合を示しています。その本を読みたいBさんやCさんを見つけるのに困難が伴いますし、少ししかその本に興味を持っていない人しか見つけられず、大幅に安くしないと売れないかもしれません。そのため、Aさんは読み終わった後うれるかどうか分からず新品の本を買うのを躊躇するかもしれません。その結果、新品の本が売れなくなるかもしれません。
さて、図7のAさん、Bさんは本を読みたくて本を買っています。図6の株式市場と比べてみましょう。彼らは企業が行う事業を見て投資を行っている投資家に相当します。一方、古本屋は本を読むために本を買っているわけではありません。90円で買った本が95円で売れれば、中身はどうでも良いわけです。古本屋は本の流動性を供給していますが、本を読んでいません。投機家に相当する振る舞いです。
しかし、古本屋は「社会の役にたっていない」とか「ただのギャンブルだ」とか「職業として認められない」といったことになるでしょうか?古本屋が職業として認められるなら、投機家も職業として当然認められるべきだと思います。

株式市場は人類の進化をもたらすイノベーションを後押し

最後に、図9を用いてまとめましょう。新しい事業(みんなの役に立つこと)をはじめるときは先にお金が必要で、その事業のお礼として受け取るお金は後に入ってきます。その時間差をスムーズに埋めるために株式を用いた投資が行われます。今、Aさんは100円を出資して企業が生まれました。しかし、この企業は非常に長い期間事業を営んでいきます。Aさんはそれよりもずっと短い期間しか投資家でいられません。そのため、Bさんに100円で買った株式を200円で売りました。後にこの株式は取引所で取引されるようになり(上場)、Bさんは300円で株式を売りました。Bさんは取引所で取引されるようになれば容易に株式を売却できることを知っていたので、思い切ってAさんから株式を買うことができました。
取引所では、この企業の事業内容にまったく興味がないが、価格の変化だけに着目して取引を繰り返す投機家が存在します。その投機家のおかげで、Cさん、Dさん、Eさんと、投資家の交代をスムーズに行えました。投資家が投資できる期間より、企業が続く期間のほうがずっと長いので、このような投資家のリレーが必要です。このリレーがスムーズにできないと、各投資家はバトンタッチができるかどうか心配になり投資を始めることを躊躇します。そして、このリレーがスムーズに行われる見込みがないと、そもそもAさんの投資が躊躇されて行われず、この企業は生まれなかったでしょう。株式市場は投資家のリレーを可能にし、それによって、不確実性が高い事業にも投資が行われ、イノベーションが起こるのです。
よくある誤解に“上場株式を購入して、しばらくして売却しても、企業に1円も払ってないから企業にとって意味がない”というものがあります。ここまでお読みいただければ自明ですが、Cさん、Dさん、Eさんは、初めに投資をしたAさんの役割を引き継いで、順に投資家を交代しているのです。すべての株式を企業が買い戻すまでは投資家はいなくならないのです。そして、企業は新たに株式を発行してそれを投資家に売却し新たなる資金を途中で得ることもできます。この資金の支払いはAさんが初めに行った出資と同じ役割を果たしています。
初めに図9だけを見ると、お金を回しているだけに見えて人類にとって株式市場がどういう機能を提供しているのか分かりにくいかもしれません。でも思い出してください。株式市場が存在するそもそもの目的は、図2、図3のような時間を越えた役割分担をスムーズに行うためなのです。株式市場は、このような時間を越えた役割分担をよりスムーズに行うために、役割を持ったものたちの創意工夫によって、古代より長い年月をかけて少しずつ構築されてきた仕組みなのです。
McMilan*4が述べたように、株式市場は他の市場と同様に、完璧なものではありませし、完璧になることもないでしょう。これからもよりよい株式市場を目指して仕組みが修正され続けるのです。一方、株式市場をなくすこともできません。株式市場をなくそうとしても、役割分担する人々に必要不可欠である仕組みである以上、また自然発生するのです*7。株式市場に任せれば経済はすべてうまくいくこともなければ、株式市場は悪であり消し去るべきものでもありません。よりよく機能する株式市場となるよう仕組みが修正され続けるだけなのです。

(*1) お金の起源に関しては多くの学術的な文献が議論していますが、読みやすい書籍としては、以下のノンフィクションがあります。
Sehgal, Kabir, “Coined: The Rich Life of Money and How Its History Has Shaped Us”, Grand Central Publishing, 2015, (邦訳:小坂恵理、“貨幣の「新」世界史”、早川書房、2016)


(*2) 水田孝信, “金融市場における最新情報技術:1. 金融の役割と情報化の進展 -市場の高速化と課題-”, 情報処理, 53巻9号, pp. 892-897, 2012.
http://id.nii.ac.jp/1001/00083434/


(*4) McMilan, John, “Reinventing the Bazaar”, A Natural History of Markets, WW Norton & Company, 2002, (邦訳:瀧澤弘和、木村友二、“市場を創る―バザールからネット取引まで”、 NTT出版、2007)


(*5) 実際には証券会社が代理として取引所に出向きますし、現在はインターネットを用いて、証券会社のシステム経由で取引所にアクセスできるようになりました。物理的な場所なのか、インターネット空間にある場所なのかは別にしても、株式を売買したい人が集まる場所を、ここでは“取引所”とよぶことにします。ちなみに東京証券取引所では1999年まで“場立ち”とよばれる証券会社の人たちが実際に取引所に物理的に集まって取引を行っていました。歴史的経緯は以下の書籍が詳しいです。日本取引所グループ, “日本経済の心臓 証券市場誕生!”, 集英社, 2017

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